連続殺人犯「ハサミ男」を追う捜査と、その犯人自身の視点が並走する。犯人を知っているはずの読者の理解を揺さぶる、殊能将之のサスペンス型本格ミステリ。
『ハサミ男』は、殊能将之による長編ミステリです。若い女性を狙い、喉にハサミを突き立てる連続殺人犯「ハサミ男」が社会を騒がせています。物語は、この犯人自身の視点と、事件を追う警察側の視点を交互に進めながら、次の標的をめぐる緊張を描きます。
ところが、ハサミ男が狙っていたはずの女性が、本人の手によらない方法で殺害されます。犯人は、自分の模倣犯が現れたのか、それとも別の事情があるのかを知ろうとし、警察もまた連続殺人の背後にある構図を追い始めます。
読者は最初から犯人側の独白に触れるため、通常の「誰が犯人か」を当てるミステリとは違う位置から事件を見ることになります。しかし、犯人を知っていることが、そのまま事件の全体像を知っていることにはなりません。警察が何を根拠に追い、犯人が何を見落としているのかを並行して読むことで、情報のずれが次第に大きくなっていきます。
本作は、連続殺人犯の内面に近い位置から始まります。読者は「犯人が誰か」という基本情報を持った状態で物語へ入るため、一見すると推理の余地が少ないように見えます。
しかし実際には、犯人が語る情報にも限界があります。自分が見たもの、自分が理解している事情、自分の計画だけでは、事件全体を説明できません。読者は犯人側に寄り添いながらも、その見方を完全には信用できないという不安定な立場に置かれます。この視点のねじれが、本作を単なる犯罪者小説ではなく、ミステリとして機能させています。
ハサミ男自身が狙っていた人物が別の方法で殺されることで、犯人は追う側にも追われる側にもなります。警察はハサミ男を捕まえようとし、ハサミ男は自分の名を使う存在の正体を知ろうとする。この二重の追跡が、物語の緊張を作ります。
通常の警察ミステリでは、捜査側が犯人の動機や行動を推測します。本作では、犯人側も警察の動きや別の犯人の存在を推測しなければなりません。誰がどの情報を持ち、どの誤解の中で動いているのかを整理すると、事件の見え方が変わっていきます。
『ハサミ男』の重要な読みどころは、物語内の人物だけでなく、読者自身の理解も検証対象になるところです。語り手が何を言い、何を言わず、どの出来事をどう受け取っているか。文章の順番や視点の置き方に注意を向けるほど、単なる連続殺人の捜査劇ではない構造が見えてきます。
そのため、作品について調べる際は、結末だけでなく「どんな仕掛けがあるか」といった紹介も避けた方がよいです。あらすじを超えた情報は、初読時に読者が自分で感じるはずの違和感を先回りしてしまいます。
犯人視点で進むサスペンス、模倣犯を扱う犯罪ミステリ、語りや視点を使った構成の作品が好きな人に向いています。閉鎖空間や館ものとは別に、都市の中で情報と認識がずれるタイプのミステリを読みたい人にも合います。
一方で、猟奇的な殺人の設定を含むため、穏やかな日常ミステリを求める場合には重く感じる可能性があります。事件の刺激だけを追うよりも、犯人側と警察側の情報差を追いながら読む方が、この作品の面白さを掴みやすいです。
このitemは、殊能将之著・講談社刊、ISBN13 9784062765138 の講談社文庫版を基準にしています。書影は同ISBNに対応する版元ドットコムの固定URLを保存しています。
犯人を知っている状態から始めながら、その視点自体を読者に疑わせる構成が核。館ものとは異なる、認識のずれを追う本格ミステリとして回遊を広げられる一冊です。
講談社文庫版です。ISBN13は9784062765138です。
連続殺人犯「ハサミ男」の視点と警察の捜査が並走し、模倣犯の出現をきっかけに事件の見え方が変わる犯罪ミステリです。
はい。語りと視点の構成が重要なため、結末や仕掛けに触れる感想は避けて読むのがおすすめです。
種別: publisher_database / 確認日: 2026-07-03 / 著者・出版社・ISBN13・文庫判・内容紹介・書影掲載を照合
種別: database / 確認日: 2026-07-03 / ISBN13・出版社・書誌情報の確認先
種別: official / 確認日: 2026-07-03 / 出版社の公式情報